映画『バグダッドカフェ』は、アメリカ西部にある寂れたモーテル「バグダッド・カフェ」に集う人々の交流を描いたヒューマンストーリー。どことなくつかみどころのないユーモラスな空気感が個人的にはめちゃくちゃ好みなのですが、人によっては「つまらない」という意見も。
今回は『バグダッド・カフェ』が人気の理由・面白さについて探っていきます。
【ネタバレあり】映画『バグダッド・カフェ』はなぜ人気?つまらない?
『バグダッド・カフェ』は主人公ジャスミンのカリスマ性に浸るための映画
前提として『バグダッド・カフェ』は、特定のキャラクターの心理や背景を詳しく描いたものではなく、その場の雰囲気や目に見えない空気感など、とことん抽象的なものをテーマとした作品です。
だからこそ、起承転結のストーリー展開を重視する人には受け入れにくい、理解しがたい部分も多いんじゃないかなあと思うんですね。
そして、先頭に立ってその抽象的な空気感を作り出しているのが主人公の女性・ジャスミン。
バグダッド・カフェの再生は、彼女の存在なくしては実現しないものだったでしょう。
面白いのが、ジャスミン自身は決して押しつけがましい性格ではなく、むしろ控えめな性格であるということ。
現に、劇中にて「こうしましょう」「ああしましょう」といった”声掛け”を、彼女は一度たりともしていない。
にもかかわらず、登場人物の多くは自然と彼女の後を追っている。
「カリスマ性」ってこういうことなんだろうと思うのです。
極端な話、『バグダッド・カフェ』という映画は、ジャスミンという一人の女性のカリスマ性にひたすら浸ることさえできれば十分楽しめるんじゃないかなあ。
ラスト、刺青師の女性デビーはなぜ出て行ってしまったのか?
しかし、ジャスミン自身は決して「バグダッド・カフェをより良いところにしよう」という信念のもと動いていたわけではありません。
掃除をして、泣きわめく赤ちゃんをあやして、ただただその場がより心地よいものになるように行動を重ねていた。
一つひとつは小さいことでも、ジャスミンの行動によってそれまでの退廃的な雰囲気がすっかり薄れ、代わりに活気に満ち満ちた新たな場所が生まれたのは事実です。
そして、その新たな空気にどうしてもなじめなかった人物がひとり。
そう、映画の終盤で、長く居座ったモーテルをふらっと出て行ってしまった刺青師の女性ですね。
「みんな仲良すぎるわ」。こんな捨て台詞を残して去った彼女。特に伏線があったわけでもなく、この急展開に「いや待って…何が気に入らんかったん…?」と戸惑った視聴者も多いのではないでしょうか。
個人的には、この刺青師さんが出ていった理由をなんとなく理解できるか、それともさっぱりできないか、このあたりが本作を楽しめるか否かの境目なんじゃないかと思っています。
思うに、刺青師さんはとにかく「馴れ合い」「内輪受け」といった空気を何より嫌う人なのでしょう。
これまでのモーテルには皆無だったその空気を作り出したのは、ほかならぬジャスミン。
とはいえ、刺青師さんは決してジャスミンが嫌いだったわけではないんですよね。実際、劇中でも話をしたり刺青を入れてあげたり、それなりに仲良くしている姿がみられます。
ジャスミンは嫌いではないが、彼女の作り出す空気になじんでその中でやっていくことはどうしてもできない。
彼女を嫌いになったり憎んだりはしたくない。
そもそも、モーテルそのものは嫌いにはなれない。
だからこそ、自分自身が出ていくしかない。
この不器用さと頑固さ、きっとわかる人にはわかるんじゃないかな。
結論。ひねくれた流れ者が生きるのは楽じゃない。
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