白泉社が発行する漫画雑誌【花とゆめ】にて連載中の少女漫画『暁のヨナ』。アニメ化や舞台化、さらにはヨナカフェなどさまざまな関連イベントも開催されており、メディアミックス作品としても注目を集めています。
今回は、『暁のヨナ』本編にてスウォンがヨナに簪を渡した意味について。
スウォンがヨナに簪を渡したのはなぜ?理由を考えてみた
簪はスウォンなりの”願掛け”だったのでは
※ネタバレ要素あり
『暁のヨナ』のストーリー序章にて、ヨナの従兄スウォンが誕生祝いとして簪を渡した件について。この直後、スウォンはヨナの父イルを暗殺し王座を奪還しています。
スウォンはなぜ、傷つけて全てを奪う直前にヨナにわざわざ簪を贈ったのか。この点がいまだ気になっている読者は多いでしょう。もちろん私もその一人ですが、ただこの件については、今後作中で深く掘り下げられるようなことはないのではないか…と予想しています。
そもそも肝心のヨナが簪を自らの意思で手放した時点で、ストーリーにおけるこの簪の大まかな役割はすでに終わりを遂げているのではないでしょうか。というわけで少なくとも現時点では、簪の意味や当時のスウォンの心境については読者一人ひとりが自分なりに筋の通った答えを見つけるほかはありません。
スウォンはいったい何を考えていたのか…。まさか上げて落とすタイプのサイコパスなのでは…的な疑念を持つ人もいるようですが、個人的にそれはないだろうと思っています。そもそもスウォンというキャラクターは、やること自体は普通に筋の通った人物ではあるため、変に性格がねじ曲がっているみたいな追加描写はさすがにもう出てこないだろうなと。
男性が女性に簪を贈る行為には「あなたを守りたい」という意味がある
では、簪にははたしてどのような意味があったのか。いろいろ考えられますが、個人的には単なる「願掛け」の意味合いが大きかったのではないかと思っています。
中国史において、男性が女性に簪を贈る行為には「あなたを守りたい」という意味があります。簪が一見、武器っぽく見えるからとかそれらしい理由はあるようですが、何より惚れた晴れたの恋愛的な意味よりは、どちらかといえば魔除けとかお守り的な意味合いが強いらしいんですね。
作中の(数少ない)モノローグをみても、スウォンには積極的にヨナの命を奪おうとする意思はないことがわかります。まあ、単なる従妹であり妹分であるという認識はあれど、親の仇の娘、という認識はないわけで。
とはいえ、他人に入れ込むことのないスウォンには、ヨナを守る義務もなく、守ろうとする意思もなかった。殺したくはないが、殺すことになってもやむを得ないだろう…くらいの相手だった。が、そうなると彼にも人なみの罪悪感は生まれるでしょう。そのもやもやした気持ちの最低限の落としどころが、あの簪を贈る行為に集約されていたのではないかなあと。
スウォンにもらった簪を捨てた(手放した)ヨナ、を気にするハク
こと簪の件について、いつも話題にされがちなのはヨナの心境とかスウォンの真意についてであって、でも実際、作中で誰より気にしていまだ執着を捨てきれていないのは部外者のハクのほうなんですよね。
真国編において簪をあっさり手放したヨナはやはり強い女性だと思いますし、まさに戦を止めようとしているこのタイミングで…というのも象徴的で良いなあと。
自分を取り囲むものたちが目にもとまらぬ早さで劇的に変わっていく中、命に関わるレベルのこわいことをたいがい知り尽くしてしまったヨナが、これまで大切に抱えてきた価値観とか美徳を全部かなぐり捨てた。オギに簪を売ったのも、おそらくはそれを示す描写の一つにすぎません。
ヨナの変化を、一番そばにいるハクはしっかり気づいていて、だからこそヨナのことを心配していた。…ふりをして、実際は彼女に比べ「変わり切れていない」自分から目を逸らし続けていたんだろうなと。
「あの簪は姫さんにとって思い出だ。俺だけがまだ手放せていない」。
ジェハにだけ打ち明けたこの想いがどういう形で昇華されるのか、読者サイドとしてひそかに楽しみにしている展開の一つと言えます。今後のハクの心境にも注目ですね。