「音楽はどんなの聴きますか?」
これは日常生活にはびこる”当たり障りのない雑談トップ10”のなかに常にランクインしている話題なんじゃないでしょうか。知らんけど。
「音楽はどんなの聴きますか?」「どんな歌が好きですか?」
こう訊かれると、エレファントカシマシが好きなんです、とたいていの場合私は答える。すると「へえ~意外!ロックとか聴くんですね!」というような言葉が返ってくることが多い。そうか、私がロックバンドを好きなのは”意外なこと”なのか。
もちろんこの場合、相手方には別段深い意図や他意はないことが多いというのは分かっている。また、この記事を書いている私自身の容姿や普段のファッション、性格やイメージに”ロックな雰囲気”というのがそもそもまるでないことが、「へえ意外!」という返答につながることも多いのだろう。
「この人はこういう音楽を聴きそうだなあ」と、出逢ったばかりの人に対し、なんとなくのイメージから勝手なカテゴライズをしてしまうことは実際私にもある。
そしてその後、少しずつ仲を深めていくなかでついに話題が”好きな音楽の話”に及んだ際、「え~そういう音楽好きなんですか、意外!」と思わず口にしてしまった経験も、正直のところないわけではない。
もちろんその発言に100%悪気はないのだけれど、しかしもしかしたら、相手方をちょっとだけ不快にさせてしまったこともあるのじゃないだろうか。
と、なんとなく不安になってしまったので、今回は「ロックバンドにハマるのは別に”ロックな人”だけじゃないよ」という切り口で自分の考えをゆるく書いてみようと思います。
なんとも抽象的な内容の記事になってしまいそうですが、良ければぜひお付き合いください。
そもそも”ロック”の定義とは?
ロックとひと口にいっても、そもそも「ロック」という単語そのものが、音楽ジャンルに限定されて使われる言葉というわけではない。
ここでは、まずは音楽分野におけるロックというジャンルについて、そして精神の在り方や信念など音楽とは別の意味合いで使われるロックという概念について分けてまとめてみた。
精神の在り様や信念を意味する「ロック」について
精神的な意味、主に信念や心の在り方というニュアンスでも「ロック」という言葉は使われる。「生き方がロックだなあ!」とかよく聞きますよね。
日本語で表現するなら、主に以下のような意味合いだろうか。
・不屈の精神
・反骨精神
・強く固い意思
・衝動的、直感的、感動的
最後に「直感的・感動的」とあるように、「ロック」はもともとはスピリチュアルな概念として、またあるいはセクシュアルな概念としても使われていたらしい。
なんといっても概念として”カッコいい”のはたしかなので、徐々に楽曲のタイトルなどに取り入れられるようになり、そこから一つの音楽ジャンルとして確立されていったと言える。
音楽ジャンルとしての「ロック」について
音楽ジャンルとしての「ロック」は、そもそも「ロックンロール」から派生したもの。ロックンロールというのは1950年代にアメリカで流行し始めた大衆音楽のスタイルを指す。
ノリのよいカントリー音楽、そこに激しいリズムとダンスが加わるのが特徴のロックンロールは、もともとは性行為を意味する隠語に由来があり、当初は”交合””性交”などの意味もあったのだとか。
その後一つの音楽ジャンルとして確立されてからは、”エイトビートのリズムを強調した、エレクトリックな音楽”という定義がなされている。
聴く音楽で他人をカテゴライズすることの意味と意義
音楽のジャンルには、ロックのほかにもさまざまな種類がある。
ジャズやクラシック、歌謡曲、ポップスなどメジャーなものだけでなく、文化の象徴として大切にされている民族音楽まですべて見ていくと、世界中にはなんと1000種類以上の音楽ジャンルが存在するのだという。
これだけたくさんのジャンルがあって、メジャーであるかマイナーであるかに関わらずそれぞれのジャンルが文化として大切にされているのはすばらしいことだ。そして、どんなジャンルを好むのか、どの文化に染まっていくのかは本当に人それぞれ。
だからこそ、誰かに「好きな音楽は?」と問われて答えるときというのは、単に個人的な趣味や娯楽について述べるとき以上に、ある種の緊張があってしかるべきじゃないかと思うのだ。
これは例えば「好きな映画」や「好きな本」についても同じことが言える。その人の好む音楽や映画や本というのは、その人が心から大切にしている精神の在り方や信念みたいなものにわりと直結している。
だから、気軽な気持ちで「え~そんなの好きなんだ、意外!」とリアクションをするのは個人的にはおすすめしない。たとえ悪気がなくても、その言葉はその人自身の有するイメージとその人が大切にしたい文化が乖離していることを意味するので、相手の気持ちを傷つけてしまう恐れがあるためだ。
ということで意図せずちょっと深い結論になってしまいましたが、結局言いたいことはこれだけです。
一見”ロック”っぽくない人であっても、ロックバンドを愛する人間はたくさんいるんだよ。
人は自分にないものを持つ人に自然と惹かれる傾向が強いといいます。私個人は、内面・外見ともに全く”ロックみ”のない人間だけれど、しかしだからこそなのか、エレファントカシマシというバンドが好きでたまらない。宮本浩次というロックミュージシャンに力をもらったことは数知れない。
それを「意外!」の一言で片づけられると、やっぱり少しだけ悲しいのです。
ロック好きな皆さんは普段どうしているんだろうか。ちょっとロックっぽい見た目をして、あえてロック好きをアピールしているような人は意外と少ないと思うのだけども。