東京・渋谷で公共トイレの清掃員として働く平山(役所広司)の静かな日常を淡々と描いた映画『PERFECT DAYS』(パーフェクトデイズ)。映像や音楽が美しい反面。見る人に解釈をゆだねる部分も多い一作です。
今回は、主人公・平山の過去や涙の意味、夢の意味などについて考察してみました。
【あらすじ】『PERFECT DAYS』(パーフェクトデイズ)はどんな話?
映画『PERFECT DAYS』(パーフェクトデイズ)は、東京・渋谷で公共トイレの清掃員として働く平山(役所広司)の静かな日常を淡々と描いた作品。
とにかく台詞が少なく、でも映像がとても綺麗で流れる音楽が美しいので退屈はしません。
個人的には、YouTubeのVlogやルーティン動画系が好きな人はこの映画もきっと好きだろうと思っています。
一方で、はっきりした起承転結があってほしい人や、伏線すべての答え合わせがしたい人にとっては「つまらない」と感じるんじゃないかな。
ストーリーが全くないわけでもないのですが、主人公・平山を含む登場人物の感情を魅せる手法が特徴的で唯一無二な感じ。正直、受け手に解釈をゆだねる部分もかなり多いように感じました。
【ネタバレ感想・考察】主人公・平山にはどんな過去がある?
「平山はかつて刑務所にいた」という説も
役所広司さん演じる主人公・平山はとにかく真面目で実直な人物。
一日中あらゆる公衆トイレを掃除して回り(仕事とはいえ)、家では読書にいそしみ、小さな鉢植えに水をやる。やることが終わったら、せんべい布団で泥のように眠る。
この映画のレビューをあれこれ読んで一番驚いたのは、平山のこの暮らしぶりをみて「彼は刑務所にいたに違いない」という人が一定数いたことです。
まあ、そういう見方もできるよね~! いやしかし、平山のような生き方をしている人だって世の中にはたくさんいると思うのですが…
姪っ子・ニコと別れた後、平山はなぜ泣いた?
本作の物語筋には、というより主に平山の性格・行動には、ダブルミーニング的に2つの印象が仕掛けられていると感じています。
見方によっては、どちらの意味合いでも十分、納得できるんですよね。
ひとつは、彼の地道すぎる暮らしぶりは過去の何かに対する罪滅ぼしであるという意味合い。
もうひとつは、現在の生活は平山自身が望んでやまなかったものであるということ。つまり、むしろ過去につらい思いをしてきて、ようやく安寧の地を手に入れられたという感じでしょうか。
しかし、姪っ子であるニコと別れた直後に涙を見せた平山の姿をかんがみると、少々意味合いが変わってくる。
子どもや肉親に対する情は人並み以上にある平山。
それなのに、あえて自ら孤独な道を選んでいる。
罪滅ぼしや逃避、みたいなこととは、ちょっとだけ違うのかもしれない。
どちらかというと…、仏教でいうところの解脱(げだつ)みたいなことなのではないかなあ。
過去に何があったのにしろ、生きているうちにそれらから完全に解き放たれることは非常にむずかしい。それこそ、出家とか修行とかしないとできないレベルのことで。
平山の生活は、ある意味ではたしかに”修行”なのでしょう。
充実してはいるけれど、彼がみる夢はいつだって白黒のまま。
ただし、逃げてきた結果ようやくたどり着いた、というよりは、生きるためにあがいてきたその先でなんとなく見つけてしまった、みたいなイメージなんですよね。
おそらくですが、平山の実家はかなりのお金持ち。そして、彼の姪っ子ニコちゃんが現在抱えているものは、平山自身がかつて抱えてきたものとかなり近いんだろうな~と予想しています。
ボーっと眺めていると、あらゆる登場人物たちの感情の重み、過去の葛藤と現在のもどかしさのギャップが、時間とともにゆっくり効いてくる。
ラストシーンに流れたNina Simone 「Feeling Good」も相まって、まるでボデイブローのような感動が襲ってくる映画でした。