白泉社が発行する漫画雑誌【花とゆめ】にて連載中の少女漫画『暁のヨナ』。
アニメ化や舞台化、さらにはヨナカフェなどさまざまな関連イベントも開催されており、メディアミックス作品としても注目を集めています。
今回は、漫画【暁のヨナ】においてきわめて重要ともいえるターン「真国編」に関するネタバレ感想と考察について。
『暁のヨナ』の真国編<タオ姫・コウレン姫>について
『暁のヨナ』における”女性キャラ”の立ち位置
※ネタバレ要素を含みます
『暁のヨナ』という作品において、真国編は非常に重要な箇所であったと思います。極端にいえばあのへんのストーリー展開がなければ、現在のヨナ姫はいないのではないかとさえ思うんですね。
なぜなら、真国にて己と同じく”闘う女”であるタオ姫とコウレン姫と出会わなければ、ヨナ姫はハクと四龍・ユンに囲まれて過ごす狭い世界で、いまだ自分の心の置き所に迷ったまま行く先を決めかねていた可能性があるからです。
『暁のヨナ』は少女漫画にカテゴリされる物語としては珍しいほど、ヒロイン・ヨナを除いて”女性キャラ”が登場しない、また登場したとしても深堀りされることがほとんどない作品です。
そんな中、タオ姫とコウレン姫の二人についてはそのビジュアル面、性格あわせた”キャラクター性”がびっくりするくらい丁寧に描写され、華々しい描線とともに作中に送り出されている。この点からも、この二人の女性の存在意義の大きさ、重要性が伝わってきます。
戦を嫌うタオ姫と、売られたケンカは買うタイプなコウレン姫
登場とともに「高華国の属国になってもかまわない」と言い放ったタオ姫。一方、故ユホンへの深い遺恨の念をいまだ手放せていないコウレン姫。
登場時に一見”ヤバい奴”っぽく見えるのは間違いなくタオ姫のほうでしょう。当然ながら民の支持が圧倒的に強かったのはコウレン姫でしたが、しかしなんだかんだで自国が置かれている状況を客観視できていたのはタオ姫のほう。
個人的に、この二人の在り方や姿勢は、ある意味ではヨナとスウォンのそれと実は結構近いのではと思うのです。
もしもイルの暗殺をヨナが目撃しておらず、スウォンが殺したという事実を知らないまま彼の傍で過ごしていたとしたら…。それでも、当時から続いていたであろう高華国の不安定な政情をふまえると、いずれはヨナも”為政者”の一人として目覚め、国の行く先を考え自分から関わり始めていたはずです。
その際も、やはりヨナとスウォンの向かう方向は違ったんだろうなと思うんですよね。血を流すことを望まないヨナ・タオと、必要とあらば争いや闘いを厭わないスウォン・コウレン。
場合によってはどちらも正しくもあり、間違ってもいる。自己愛も持たない献身的な為政者だからといって正しい道を選べるわけではありません。この点、高華国も真国も、双方のバランスを細い糸の上でなんとか保っている状態と言えますね。なんともひやひやするこの感じ、おそらくは最終章にて戒帝国との争いの中で終着点がみつかるはず。楽しみですね。
『暁のヨナ』の真国編・五星<アルギラ・ヴォルド・ヨタカ・ミザリ・ネグロ>
そしてヨナの真国編を語る上で外せないのはやはり、国の根幹を支える武人集団こと「五星」の存在です。登場時、アルギラ・ヴォルドは反戦派のタオ姫側に、残り3名ヨタカ・ミザリ・ネグロはコウレン姫側についていましたね。
この点、まず注目すべきはアルギラとヴォルドの選択です。国の要人を守ることを生業としている、つまり戦うのが務めである人間でありながらも「反戦派」につく、というのは実際すごいことだと思いますし、この選択をすることで周囲からどんな視線を向けられるかは本人たちもよくわかっていたはず。
それでもタオ姫派についたのはやはり、彼女と同じく真国の現状がしっかり見えていたためでしょう。彼女個人に肩入れしたかったわけではなく。
そう考えると、アルギラとヴォルドは武人ハクにも近い部分があるのかなと。人の上に立つ才能がありながら、息を吸うように他人を搾取・利用し、そのぶん真国から膨大な恨みを買い続けたユホンとは違い、あくまで政と武の腕は別ものというわきまえがきちんとできているのでしょう。
一方のヨタカ・ミザリ・ネグロは、それぞれの信念や国に対する思い入れが少々強すぎて、逆に見るべきものも見えなくなっていたきらいがあります。
彼らにとって「国」とはすなわちコウレン姫のこと。彼女が望むものは全て正しいという盲目的な忠誠があの結果につながり、ゴビ神官みたいな負債をも生み出してしまったのでしょう。
しかし五星のキャラクター性を包括的にみていくと、実は高華国の五部族長よりも”国を視る”能力としては高いんじゃないのかなと。真国編はいずれにしても見どころの多いシーン満載ではあります。ストーリー展開、キャラクターあわせてつくづく作り込まれたターンだなあと思いますね。