私立恵比寿中学(エビ中)『面皰』概要
『面皰』は、私立恵比寿中学(エビ中)のアルバム『穴空』収録曲。作詞作曲はシンガーソングライターの吉澤嘉代子。
この楽曲について吉澤嘉代子は「青春を感じさせる楽曲なので今の自分には歌えないと感じていた、エビ中に提供できて良かった」とコメントしている(過去インタビューなどにて)。
エビ中『面皰』の歌詞の意味は?
『面皰』は曲調・歌詞ともにきわめて可愛らしい歌である。楽曲のテーマはズバリ「ニキビ」そのものなのだけれど、それを感じさせないほどポップな雰囲気、そしてどこかレトロなメロディーラインがリスナーの耳に心地よく響く。
歌詞をみてみよう。
ニキビが治ったらって思うけれど ほんとうの願いは違うの
『面皰』私立恵比寿中学
いつかは終わる少女時代の いまこの一瞬を見つめて
個人的に好きな表現はここだ。<ほんとうの願いは違うの>。
この楽曲は、思春期にできるやっかいなニキビという一点に着目しているようにみえるが、実は本当に主張したいのはそこではない。吉澤嘉代子が歌の世界を通して描き出したいのは、ニキビができるくらい若い年頃の女の子たちが人知れず胸に抱く『ほんとうの願い』なのである。
では、この歌の主人公が抱く「ほんとうの願い」とは何だろう。それはおそらく、歌詞の重要な部分にピンポイントで登場する『あなた』の存在だ。
あなたが望むなら あなたが望むなら
あなたが望むなら このニキビ捧げてくれようあなたとわたしとニキビで
面皰』私立恵比寿中学
デートを してくれますか?
主人公はきっと、歌詞に登場する『あなた』がニキビの存在を認めてくれるか、それとも冷たく突き放されるか、不安で不安で仕方がないのだろう。
それでも『あなた』がそのままの自分を認めてくれるなら、ニキビが治ろうが治らなかろうが、『あなたとわたしとニキビ』でデートをしたいくらいには、あなたのことが好きなのだ。
…うん、もう、どうしようもなく可愛い。この素朴な健気さが、エビ中の清楚な存在感にものすごくマッチしていると思う。
また、曲を聴いていて、間奏の部分に聴こえてくる擬音がちょっとだけ気になった。
パ~ヤッパ~ヤッパ~ヤッパ~ヤッ
『面皰』私立恵比寿中学
パッパッパヤッパー
パヤッパーパヤッパーパヤッパー
なんとなく不思議な擬音である。あるようでないような、しかし他の楽曲ではあまり聴いたことがないような気がする。
この擬音のために、どことなく夏のお祭りを思わせるような明るい雰囲気が生まれている。ニキビの存在を憂えている楽曲のはずなのに、なぜかものすごく楽しげな情景が脳内にパッと浮かぶ。
可愛らしさと楽しさと、そしてその裏にそっと隠している不安と『あなた』に対する恋心。
まさしく思春期の乙女の心をリアルに歌い上げた一曲だと思う。
エビ中『面皰』歌詞の面白さとエビ中のコンセプト
この曲『面皰』の歌詞の面白いところは、曲の前半と後半で、主人公のニキビに対する感情が180度がらりと変化するところだ。
曲の前半、主人公は全身全霊でニキビの存在を否定している。<青春の証ってそんなのいらないもん>。ニキビが治らなければ、デートさえできない。そんなふうに嘆きながらも、曲の後半にさしかかった途端<いつからか美しく思えてきちゃう(うっとりー)>である。
この変わり身の早さや自己肯定感が唐突に上がったり下がったりするところ、なんかまさしく思春期っぽくってああいいな~と思うのだ。
そういえばエビ中のコンセプトは『永遠に中学生』だった。同じ思春期といえども、中学生と高校生では、正直だいぶ内面が変わってくるように思う。特に女子は。
ニキビ一つに右往左往するこの感じは、やっぱり高校生というよりは中学生っぽい。そういう意味では、当楽曲はエビ中のコンセプトや特性を最も的確にとらえた楽曲といっても過言ではないのかもしれない。