青葉市子さんの『いきのこり●ぼくら』という楽曲をご存じだろうか。
「歌詞が怖い」「震災を意味している?」など話題を呼んだ当楽曲は、しかしメロディーラインがゆったりしていて耳に心地よいため、リラックスできる一曲として気に入っている人も多い。
今回は、歌詞や雰囲気が青葉市子さんの『いきのこり●ぼくら』に似た楽曲について!
青葉市子【いきのこり●ぼくら】に似ている曲5選
①サーカスナイト / 七尾旅人

『サーカスナイト』は、シンガーソングライター七尾旅人さんの楽曲。
2012年リリースアルバム『リトルメロディー』に収録されている。
サーカスナイトは、歌詞・曲調ともにとにかく切なさが溢れだす一曲だ。そして曲の舞台設定が”サーカス”であるため、どこか異国情緒の滲んだふしぎな雰囲気も漂っている。
七尾旅人さんときけば、まずはこの曲を思い浮かべるという人も多いんじゃないだろうか。
Oh Baby 今夜のキスで 一生分のこと 変えてしまいたいよ/ 目の前で魔法が解けていく 焦る気持ちだけが言葉つなげ
七尾旅人『サーカスナイト』
楽曲の主人公である「冴えないピエロ」が”あなた”に向ける生の感情が、歌詞の行間一つ一つに痛いほど滲みだしているのがわかる。
『いきのこり●ぼくら』との共通点はこの不思議な世界観、そしてフレーズの繰り返しだ。
今夜だけ辿り着きたい ピエロ
七尾旅人『サーカスナイト』
今夜だけ生き延びたい ピエロ
Baby 今夜だけ 今夜だけ 今夜だけ…
歌詞だけを見ていくと『今夜だけ』しか生き延びられない、という状況がどんなものなのか、リスナーにはよくわからない。
恋の終わりの比喩なのか、あるいはもっと具体的な状況が何かあるのか。
ただ漠然とした悲しさと恐ろしさ、それらがごちゃまぜになった感情がビシビシ伝わってくる。
ちなみに『サーカスナイト』は青葉市子さんがカバーしたことでも話題となった。
青葉市子coverバージョンは、青葉市子さんの声色に特有の儚さ、切なさが歌詞にものすごくマッチしていて、原曲よりも静かなしっとりした世界観が広がっている。
そして原曲と違い、まるで女性の心を歌っているようにも聴こえる。YouTubeで聴くことができるのでそちらもぜひ。
②呼び声/ 空気公団

青葉市子さんの【いきのこり●ぼくら】が好きな人には、ポップ・ロックバンド『空気公団』の楽曲【呼び声】をぜひ一度聴いてみてほしい。
知らないふりしてることが当たり前になりそうだね
空気公団【呼び声】
深い夜に吸い込まれている僕らは消えない
【呼び声】は、強いメッセージ性をはらんだ曲ではない。タイトルの『呼び声』というのがいったい誰の声なのか、そして誰が何を”知らないふり”しているというのか。歌詞の中に具体的なヒントは何もない。
静寂と”深い夜に吸い込まれる”ことへ対する漠然とした恐ろしさ。過激な表現は何ひとつないのに、なぜか理由の分からない恐怖を感じる。
この良い意味での得体の知れなさはやはり、青葉市子さんの『いきのこり●ぼくら』に共通するところではないかと思うのだ。
③泣き虫ジュゴン / 吉澤嘉代子
『泣き虫ジュゴン』は、シンガーソングライター吉澤嘉代子さんの楽曲。2011年リリースのアルバム『HoSoNoVa』に収録されている。
『泣き虫ジュゴン』の魅力は、曲全体にただよう静かでふしぎな世界観だ。歌の主人公はタイトル通り”泣き虫なジュゴン”。
海水に飲みこまれた日 産声を上げたんだよ
吉澤嘉代子【泣き虫ジュゴン】
ただ切なさにおどろいて
海の中で泣けばわからないからと、深い水面下に姿を隠すようにして泣くジュゴン。
『いきのこり●ぼくら』のような、いわゆる”ちょっと怖い”雰囲気はこの歌にはあまりないかもしれない。
ただ、静かさや切なさ、そして”非日常感”がリスナーの心に深く残るという一点が共通している上、終始おだやかな曲調でやたら耳に残るため、【いきのこり●ぼくら】が好きな人には結構ハマるんじゃないかと思う。
④あなたへの月 / Cocco

Coccoの『あなたへの月』は、歌詞や曲調にどことなく”凄み”が感じられる楽曲だ。そして歌詞の中には”過ち”、罪”、”罰”といった印象的なワードがちりばめられている。
月が遠くで泣いている
Cocco【あなたへの月】
暗闇の中 泣いている
月が「泣いている」のはなぜなのだろうか。具体性はまるでないのに、歌詞をみていくと”裏切り”というキーワードがくっきりと浮かび上がってくる。
あなたが忘れ去った夜空
Cocco【あなたへの月】
私がよんだ雨空
情景描写の繊細さがいかにもCoccoらしくて心を惹かれる。この鮮明さと切なさが同居している感じ、なんとなく青葉市子さんのもつ雰囲気と近いと感じるのだけど、どうだろうか。
⑤ポロメリア/ Cocco

Coccoの『ポロメリア』は、やさしさと淋しさが奇妙に同居している一曲だ。そしてじっくり聴いていくうちに、そこはかとない”懐かしさ”、”既視感”が感じられる。
『ポロメリア』の出だしはこうだ。
金網の向こう 陽に灼け果て
Cocco【ポロメリア】
干からびてく 通り道
【金網の向こう】というフレーズで始まるところが、個人的にすごく好きだ。なにげないフレーズのようで、実はすごい歌詞なんじゃないかとこの楽曲を聴くたびに思う。このワンフレーズを耳にするだけで、金網の向こう、どこか遠くのほうに続く小道をぽうっと眺めている主人公の姿が、瞼の裏にぶわっと浮かぶ。
あの丘を越えればいつもあなたがいた
Cocco【ポロメリア】
さよなら かわいい夢の匂い
主人公は「あなた」という存在を失ったのだろうか。
歌詞の言葉には「ありがとう」も「愛してる」も一言も入っていないのに、なぜか歌詞にはない言葉が聞こえてくるような気がする。それは主人公がいまだ抱えているであろう、”あなた”への想いだ。
歌詞の中に主人公の想いや感情がほとんど表れていないのになぜかビンビン伝わってくるこの感じ、青葉市子さんの『いきのこり●ぼくら』とすごく似ている気がして仕方ない。すごい歌だと思う。