独特のハスキーボイスが特徴のボーカリスト・アイナ・ジ・エンド。
2023年6月をもって解散したアイドルグループBiSHの元メンバーであることで知られる彼女だが、実はアイドル時代から、シンガーソングライターとして個人での表現活動も続けている。
2023年10月公開の岩井俊二監督映画『キリエのうた』の主演をつとめることでも話題だ。
今回はアイナ・ジ・エンドのソロ楽曲のうち、特に評判の高い神曲3曲について。
アイナ・ジ・エンドの名曲3選
①『金木犀』
『金木犀』は、アイナ・ジ・エンド(ソロ)の1stアルバム『THE END』収録曲。作詞作曲はアイナ・ジ・エンド。2021年に「THE FIRST TAKE」で披露されたことでも知られている。
長所のない私です 築き上げた結び目を解く
金木犀揺れる頃 あなたには会えない
『金木犀』は全体的に”切ない”曲だ。歌い出しの<長所のない私です>のフレーズが、リスナーに歌の主人公の孤独を強く印象づける。
仮にもアイドルが歌うのだから甘酸っぱい恋愛の歌なのかと思いきや、この楽曲には主人公の相手方の姿も言葉も一切、出てこない。相手の人物像すら全く見えてこない。なぜなら、この曲における世界観はすべて「主人公の心の声」にすぎないからだ。
切り離してゆく 今日も一人
貪る目 眠れない 途切れますように
歌のなかで、主人公はずっと一人きり、ひたすら孤独を持て余している。<あなたに逢えない><あなたに言えない>とあるように、歌の世界そのものがどこまでも深く内省的だ。
この曲の魅力は独特の儚さと切なさで、BiSHの多くの楽曲にみられる力強さや迫力はあまり感じられない。一人の女性の内面を繊細に歌ったこの曲には、アイナがソロアーティストとして一歩を踏み出した覚悟の念が鮮明にあらわれているとファンの一人として感じた。
②『ペチカの夜』
『ペチカの夜』は、アイナ・ジ・エンド(ソロ)の2ndアルバム『THE ZOMBIE』収録曲。作詞作曲はアイナ・ジ・エンド。
『ペチカの夜』は、『金木犀』と同様に一人の女性の孤独を歌った歌だ。
歌い出しの<どうか出よう 泣けてきちゃったから>、そして曲のラストの<ここからどうか出よう 泣けてきちゃったから>、この2つのフレーズが、歌の主人公の抱いている閉塞感を非常にリアルにあらわしている。
食事を済ませて日記を書きます/ 三日間溜めた分 丁寧に埋める
歪みがきこえる 屋根裏逃げ込みたいな
「日記を書く」というのはきわめて日常に即した行為である。主人公は三日間書けなかった日記をなんとかいつも通り書こうとすることで、自分を正常に保とうとする。しかし「歪みが聞こえ」てきて、孤独な夜はどんどんその密度を増していく。
『ペチカの夜』は曲調、歌詞ともに静かな歌だ。そのぶん曲全体にただよう閉塞感がリアリティをともなって感じられる。とてもストーリー性の高い一曲だと思う。
③『死にたい夜にかぎって』
アイナ・ジ・エンドを語る上でやはりこの楽曲は外せない。『死にたい夜にかぎって』は、アイナ・ジ・エンド(ソロ)の1stアルバム『THE END』収録曲。
作詞作曲はアイナ・ジ・エンド。TBS系ドラマ「死にたい夜にかぎって」エンディング主題歌に抜擢された。
死にたい夜にかぎって思い出す 君の笑顔を
死にたい夜にかぎって現れる影を見れたらいいな
歌詞のなかで何度もくり返されるフレーズ<死にたい夜にかぎって>。言葉の響きとしてインパクトが強いうえ、この楽曲のどこか物憂げな雰囲気にぴったりマッチしている。
歌詞の暗さや<死にたい夜>という一種のマイナス表現とは裏腹に、この曲には聴いているとなぜか落ちつくようなふしぎな穏やかさがある。それはゆったりした曲調であるためだけでなく、アイナの持ち味であるハスキーな声質の効果が大きいのだろう。
この楽曲の主人公「僕」は、<死にたい夜>の向こうに「君」の影をみる。それは彼にとってとてもしあわせなことなのだ。
「死」というワードが入っていながら、リスナーにその重苦しさをあまり感じさせず、むしろ爽やかな心持にしてくれる。ふしぎな雰囲気のある曲だと思う。
まとめ
今回はアイナジエンドのソロ曲のうち、特に評判の高い3曲について紹介した。映画『キリエのうた』の公開も近い。アイナの歌声のファンの一人として、今後の活躍も変わらず応援していきたいと思う。