【考察】藤井風『死ぬのがいいわ』は太宰治っぽい?歌詞について思うこと

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音楽

2022年の紅白歌合戦でも披露された藤井風の『死ぬのがいいわ』という楽曲について、なにげなく耳にした人のなかには「歌詞の意味がよくわからない」「なんかヤバめの雰囲気の歌?」という感想を抱く人も多いという。

今回は『死ぬのがいいわ』の歌詞の意味について、個人的な解釈をまとめてみた。

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藤井風『死ぬのがいいわ』概要

『死ぬのがいいわ』は、藤井風の1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』(2020年リリース)収録曲。インパクトのある楽曲タイトルが注目され、また紅白歌合戦でも披露されたことから、その歌詞に着目する人が増えたという。

藤井風『死ぬのがいいわ』歌詞の意味は?

『死ぬのがいいわ』は”メンヘラソング”?

『死ぬのがいいわ』は、どことなくつかみどころのない不思議な雰囲気の楽曲だ。

あたしの最後はあなたがいい
あなたとこのままおサラバするより
死ぬのがいいわ 死ぬのがいいわ

藤井風『死ぬのがいいわ』

この楽曲を初めて聴く人は、インパクトのあるフレーズ『死ぬのがいいわ』に目を引かれがちだ。しかし、歌詞を理解するためにより注目するべきなのは『死ぬのがいいわ』の前のフレーズに登場する人物『あなた』のほうではないかと思う。

最後は「あなたがいい」。
『あなた』と別れるくらいなら「死ぬのがいい」。

歌の主人公は、歌詞のなかで登場する『あなた』に対し、相当な執着心を抱いていることがわかる。聞きようによっては「別れるくらいなら死んでやる」という一種の脅迫にもとれる。

というか、紅白で初めてこの楽曲を耳にした人のなかには、実際そのように解釈した人も多かったようだ。歌詞をぱっと眺めたときの表層的なイメージ、そして当楽曲披露時の演出や藤井風のたたずまい(なんというか…何かの宗教の教祖なのかと思わせるような衣装、そして舞台演出だった気がする)をみて「メンヘラソング」と認識した人も少なくはなかった。

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『死ぬのがいいわ』歌詞の本当の意味は?

しかし実際のところ、この曲はそもそも「恋愛ソング」ではない。実際、藤井風自身がインタビューの際に「歌詞の”あなた”は特定の他人を示しているわけではない」と明言している。

では、歌詞の”あなた”とはいったい何を指すのか。藤井風は、”あなた”とは「自分自身のなかにいる愛しい人。自分の中にいる最強の人」であると語っている。(リリース時インタビューやドキュメンタリーにて)

この言葉を聞いて、ふと「インナーチャイルド」という概念が頭に浮かんだ。

抽象的な話になってしまうが、インナーチャイルドとは自分のなかに存在する「内なる子ども」のことを指す。主に心理学やスピリチュアルの分野で使われる用語だ。

SNSに見知らぬ他人の無責任な言葉が日々飛び交う現代は、自らの”インナーチャイルド”を大切にできていない人がとても多いと言われている。こう言われてもピンとこない人も多いかと思うけれど、要は自分自身を主軸にして生きていない人が増えてきているということだ。

しかし他人軸で生きていると、いつのまにか自分自身の本質を見失ってしまう。他人の発言一つに簡単に振り回されてしまい、自分がどうしたいのか、何がしたいのか、まるでわからなくなってしまう。

そうなるくらいならいっそ『死ぬのがいいわ』ということなのだ。

この曲はいわゆる他人に対する執着心を捨てられない『メンヘラ』を描いた楽曲ではない。むしろその真逆で、自分自身を大切にできないなら、自分に執着できないくらいなら生きている意味がない、という内容の歌なのである。

そう理解したとたん、急に楽曲の意味合いが180度くるりと変化する。ありていな言い方だけれど、最初の印象と全く違う聴き方を楽しめるからこそ、この曲はやっぱり”すごい”のだと思う。

たとえば、歌詞の中に『自分を大切にしよう』『自分の本当の心に耳を傾けよう』というようなきわめてストレートなフレーズがあったらどうだっただろうか。

もちろん、そういうストレートな歌詞が似合うアーティストも大勢いる。が、個人的に藤井風はそういうアーティストではないのじゃないかと思ったりもする。

いちファンの勝手な意見だが、私は藤井風にはこの『死ぬのがいいわ』のようにちょっとだけひねくれた変化球的な表現をもっともっと突き詰めて欲しい。

そういう歌詞が、あるいは歌い方や魅せ方が、彼の独特な雰囲気に本当に合っていると思うし、何よりどうしようもなくカッコいいと思うのだ、というかあの若さであの色気、どうなってるんでしょうね。本当に。

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備考:藤井風は”太宰治”っぽい?

これは余談だが、藤井風が「太宰治っぽい」「もしかしたら太宰治の生まれ変わりなのではないか」という謎の感想がインターネット上で時おり見られる。

そして、そういう場面で引き合いに出されることが多いのが、決まってこの『死ぬのがいいわ』なのだ。

う~ん…たしかに歌詞だけを見れば”太宰治感”はあるっちゃある、かもしれない。太宰治の作品はいわゆる死生観みたいなものに直結した内容や多少過激な表現が多いし、表面上だけをみればたしかに似ていると言えなくもない。ただ、あくまで「表面上だけ」だ。

『死ぬのがいいわ』の歌詞の本当の意味をきちんと理解すれば、この楽曲の主張は太宰治の『人間失格』のそれとは全然ちがうことが分かると思う(『人間失格』自体は個人的に好きな作品なので、否定する意図ではもちろんない)。

しかし歌詞の意味合いって奥深いですよね。こういう考察はしようと思えばいくらでもできるしキリがないけれども、こうやって考察しようと思わせるのもある意味”名曲”たる所以の一つなのかもしれない。

アーティストの主張したいことと、歌詞を受け取る人の解釈が激しく乖離してしまうことも時々ある。

もちろん歌の解釈なんて人それぞれ。でも「本当にこういう意味なのかな?」とちょっと考えてみるのもある意味音楽の楽しみ方の一つと言えるのかもしれない。『死ぬのがいいわ』を聴いていると、そんなことをふと考えてしまう。

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