雨宮まみ『40歳がくる!』の未発表原稿『だんだん狂っていく』を読んで

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雨宮まみ 読書

2016年に急逝されたライター雨宮まみさんの著作『40歳がくる!』が待望の書籍化。大和書房より、穂村弘さんや山内マリコさん、初期の編集者らの特別寄稿や当時の未発表原稿もともに収録された特別な形で提供されています。

今回は雨宮まみさんの『40歳がくる!』に新たに収録された未発表原稿『だんだん狂っていく』を読んだ感想について、生前の彼女のファンの一人として。

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雨宮まみ『40歳がくる!』概要

未完のWeb連載、待望の書籍化!2016年に急逝した著者によるWeb連載が待望の書籍化!
穂村弘、山内マリコ、初期の編集者らによる特別寄も収録してよみがえる。

『40歳がくる!』プレスリリース引用

雨宮まみさんの『40歳がくる!』は、元々Web媒体にて連載されていたエッセイコラムを改めて編集し書籍化されたものです。

そのため、当時の連載を読んでいた人からすると既視感のある内容であるかもしれません。が、個人的には、こうして一定の時を経て再び目にすると多少感じ方や受ける印象が違うようにも感じました。

本書について、雨宮さんの死後は悲しくて読めなかった、読めなくなった、あるいは読むのが怖かったという声も時々見かけますが、自分を含め、今だからこそ読めるようになったという人も案外多いのではないでしょうか。

『40歳がくる!』に新たに収録された未発表原稿『だんだん狂っていく』

当時のWeb連載『40歳がくる!』に加え、新たに収録された未発表原稿「だんだん狂っていく」について。

タイトルに反し筆致は非常に淡々としたもので、起きた出来事や内実の変化を第三者の視点からきわめて冷静に記録しているような雰囲気がありました。もちろん文章から受ける印象というのは読み手の立場や心情により変わってくるものではありますが、個人的には、ああ、雨宮さんらしい文章だなあ…と感じました。

雨宮まみさんの文章は、時に書き手の感情や激情をはらんでいることもありますが、それでも地の文というのか、根幹の部分はものすごく淡々としていて、その二面性、みたいなものに読者は惹かれていくのではないかと、私は連載当時から感じていて。

『だんだん狂っていく』において随所で丁寧すぎるほど丁寧に描かれている”希死念慮”。これを強く感じている時期は実はまだまだ大丈夫だということ。しかし、弱い希死念慮が始めは生活の表面に、そして徐々に深層にまで深々と侵入してきたときに、ああこれはもうダメだと白旗を上げざるを得なくなったということ。

何があった、とひと口に語れるようなものではなく、だからこそ人の気持ちなど他人にはなかなか伝わらない。

雨宮さんは彼女の紡ぐ文章と同じく、常に冷静さを捨てられなかった人なのではないかと感じられてなりません。冷静さを捨て、つらい苦しいと泣き叫ぶことができるような人であったなら、追い詰められてしまったときに『だんだん狂っていく』の原稿内で描かれているような”冷静”な心の持ち方はきっとできなかったでしょう。

それでも、少なくとも何人か寄り添ってくれていた方がいたようでよかった。ウェディングドレスを買ってくれたご友人の話が、本書の中では個人的に一番印象に残っています。

感じることは人それぞれ、それでも自分にとってはやはりこのタイミングで読むことができて良かったなあと。普段から気軽に読み返せるような内容ではないけれど、それでも人生の折にふれて何度も読み返したい、ふと振り返りたいような、そんな一冊になるような気がしています。雨宮さんのファンも、そうでない人も、ぜひ。

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