吉本ばなな『TUGUMI  つぐみ』あらすじとネタバレ感想 つぐみはラストどうなる?

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読書

吉本ばななさんの著作『TUGUMI つぐみ』は、1989年に発表された青春物語。本作は第二回山本周五郎賞受賞作品でもあり、吉本ばななさんの代表作として、デビュー作『キッチン』と同じく国内外を問わず広く知られています。

今回は吉本ばななさんの『TUGUMI つぐみ』のあらすじとネタバレ感想について。

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吉本ばなな『TUGUMI つぐみ』の内容・あらすじ

『TUGUMI つぐみ』はどんな話?

『TUGUMI つぐみ』の語り手は、大学生の少女・まりあ。舞台は彼女が帰省しひと夏を過ごした海辺の街です。この夏、まりあがともに過ごしたのは、彼女の従妹であるつぐみと陽子。そして海辺で偶然知り合った、恭一という男の子でした。

作中では語り手のまりあ、そしてつぐみ・陽子、恭一の人間関係などが、あくまで”ひと夏かぎりの美しくも儚い思い出”という形で描き出されています。その中でも最も重点的に描かれているのは、まりあの従妹である少女・つぐみの人間性、そして彼女が他者にはなかなか見せることのない本当の心。

「つぐみは自分だ」

本作あとがきにて、著者の吉本ばななさんは「つぐみは自分だ」と記しています。
吉本ばなな作品の特徴といえば、人の生と死、孤独、あらがうことのできない人生の波、そしてその先にある他者との関わりとあたたかさ。

デビュー作『キッチン』をはじめ、人生の暗さの先にあるほのかな明かりと温もり、そういった生きることにおけるさまざまなエッセンスが、あくまで語り手の人間の視点から丁寧に描き出されているやさしい作風に定評があります。

しかし『TUGUMI つぐみ』においては、語り手まりあは常に自分自身の内面よりも、従妹の少女・つぐみのほうに注意を向け、心を砕いているように思えます。そういう意味では『TUGUMI つぐみ』は吉本ばなな作品としては珍しく”俯瞰的に””客観的に”描かれた作品であると言えるかもしれません。

吉本ばなな『TUGUMI つぐみ』ネタバレ・感想

ここからは『TUGUMI つぐみ』本編について、内容のネタバレや個人の所感を書いています。

病弱な美少女・つぐみ

本作にて最も注目したいのはやはり、語り手まりあの従妹・つぐみ。彼女の人間性の特徴として強調されているのは、作中の表現を借りるなら「身体が弱いこと」「性格が悪いこと」、この2点です。

つぐみは生まれつき身体が弱く、しかしそのぶん「ひねくれた」「図太い」精神、そして若い女の子としては珍しいほどに確固としたゆるぎない価値観を持っています。

『TUGUMI』のストーリーは、このつぐみの人となりを軸として展開されていきます。つぐみの姿・描写に、読者側は何を思い、何を受け取るべきなのか。
意地の悪い性格、口の悪さ、そういった「表面上の特性」はすべて読者にわかるようにはっきりと描かれていますが、つぐみの内面のほうは文中にはほとんど出てきません。

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そして文中に登場するつぐみの人間性・人となりに関する描写は、あくまで語り手であるまりあの視点でしかなされていません。

つまり読者が目にしているつぐみは、彼女のありのままの姿とは言えません。あくまで”まりあが解釈したつぐみの心”を、読者は全編通して見せられ続けていることになります。

つぐみの本性とは…?

では、まりあから見たつぐみと、実際の彼女の本性にはどれくらいの差異があるのでしょう。

まりあは近しい人間として、つぐみを比較的正しく理解していると言えるように思います。が、身内のひいき目と言うべきか、実際よりも高く評価している傾向も多少はあるように感じられました。

つぐみ「あたしは平気でポチを殺して食えるような奴になりたい」

「あたしは平気でポチを殺して食えるような奴になりたい」

これは作中でつぐみが語る、彼女なりの「哲学」です。食べるものが全くなくなったときに、たとえどんな手を使ってでも、それこそ可愛がっている犬を食べてでも、生き抜いてやる。

ここで読者サイドとして注目したいのは、つぐみが実際に犬を殺すか、また殺せるかどうかという倫理の面ではなく、彼女の生に対する執着の強さです。
生まれつき身体が弱いつぐみはきっと、なんとしてでも生き続けなければならない、舐められてはならないと、つねづね自分自身に言い聞かせてきたのでしょう。

余談ですが吉本ばななファンとしては、このつぐみの心境は著者本人の深層心理に少し近いのではないか…という気がしてなりません。
デビュー作『キッチン』の大ヒットにより若いうちから有名になり「天才作家だ」と言われ続けた日々。それでも表面上の名声やお金目当てに近づいてきた人たちの数も半端ではなかったと、のちにエッセイなどで何度も当時の心境を吐露していたのが印象的でした。

作家として生き続けたい、生き続けなければならない。作品を生み出し続けることに対する著者の執念は、そのまま生きることへの執着につながっていたのではないでしょうか。

ラスト、つぐみの生死は?

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物語の終盤、つぐみは体調を崩し、しばらくのあいだ生死をさまよいます。
この”臨死体験”を機に「つぐみは新たな人生を歩み始める」というのが本作の結末です。その意味では、『TUGUMI』は少女たちのひと夏の青春物語であるという以上に、つぐみという一人の人間の再生の物語であると言えるかもしれません。

しかし物語のラスト、つぐみはいったいどのような心境だったのでしょう。生死をさまようレベルで体調を崩すなんて、普通の身体をもつ人ならば一生にそう何度もない特別な出来事です。

でもつぐみには生まれつき、他の人のような健康な身体が与えられなかった。だからこそ、いざとなったら”可愛がっている犬を食べてでも”生き抜いてやるという尋常ではない気概があったのでしょう。

しかし本作ラストの展開をみると、九死に一生を得たつぐみは良い意味で肩の力が抜けたように私には思えました。つぐみ自身も作中にて、これから自分は少しずつ変わっていくのかもしれない…と語っています。

全力で生きること、生き抜きたいと願うこと。
ひと夏の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれたつぐみの願いは、彼女の内面で静かに堆積し姿を変え、そしてまた違う季節の中で、何か違う形で、これからの彼女を形づくっていくのでしょう。激しさとやさしさ、そして奇妙な懐かしさが同居した一冊でした。

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