日本を代表する4人組ロックバンド「エレファントカシマシ」(通称エレカシ)。1981年結成、1986年にデビューし幅広い表現活動を続けてきた当バンドは2023年3月、無事35周年を迎えました。
本記事ではエレカシの20枚目のオリジナルアルバム『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』収録曲、そして当アルバムが廃盤になった理由について考えたことをまとめています。
エレカシ『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』概要
『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』はエレファントカシマシの20枚目のオリジナルアルバム。前作『昇れる太陽』から実に1年7か月ぶりのリリースでした。
ちなみに『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』という長いタイトルになってしまった理由は、「悪魔のささやき」だけでは許可が出なかったからということです。
う~む、しかし音楽関係のコンプラははたしてそんなにキビシイのだろうか?
たとえば食べ物関連でも、悪魔の〇〇的な商品はたくさん世に出ていると思うのだけども(※主に「悪魔的においしい」というような意味で)。まあ、そこはいろいろと大人の事情もあるのでしょう。
エレカシ『悪魔のささやき』収録曲
◆全作詞・作曲:宮本浩次
1. moonlight magic
しっとりした曲調の楽曲。歌詞もどことなくロマンチックかつファンタジックで、初めて聴いたときは「なんとなく絵本みたいな世界観だなあ」なんて思った記憶。ちょっと青みがかった月光が目に浮かぶようで、夜になると時おり聴き直したくなる一曲です。
2. 脱コミュニケーション
一曲目とはある種真逆のイメージの楽曲。イントロのギターの音、そして出だしの雄叫びを聴いた瞬間「うん、これぞエレカシ!」と思わず手を打ちたくなる。希望溢れる歌詞も好きです。
3. 明日への記憶
ロックと文学の世界観が最高にマッチした一曲。演奏時間は約6分と長めなのだけども、長すぎるとは全く感じない。この曲を聴いていると、濃厚な短編小説でも読んでいる気になってくるのはなぜでしょう。聴きながら歌詞をじっくり読み込みたくなる一曲です。
4. 九月の雨
曲調、歌詞ともに非常に叙情的で、どこか昭和歌謡の空気感がただよう一曲。春夏秋…と季節が淡々と過ぎ去っていく中ににじむ切なさ、そして九月に降る秋雨。雰囲気だけだけれど、個人的にシンガーソングライター森田童子さんの楽曲の空気感に近いものがあると感じました。
5. 旅
雰囲気が一変し、ザ・ロック!という感じが非常に強い一曲。俺、空、太陽、心、旅路などなど、非常に”エレカシらしい”ワードがふんだんに詰め込まれた歌詞も好み。あとギターソロが素敵でした。
6. 彼女は買い物の帰り道
間違いなくエレカシの”隠れた名曲”たる一曲。私はこの曲を初めて聴くまでそもそも宮本浩次は女性が主人公の曲は書かないのだろうと思っていて、だからこそ衝撃と感動は大きかった。
単に女性目線がレアだからというだけでなく、女性特有のわずかな心の揺らぎ、みたいなものが本当に繊細に表現されていてそれがとても良い。女性なら特に”リアルに”心に刺さる一曲だと思います。
7.歩く男
エレカシの「男」シリーズのうちの一曲ですね。「今が全て」「一瞬が全て」とくり返されるフレーズがまさしく宮本浩次の生き様を示しているようで聴きいってしまう。また言葉遣いや雰囲気にどことなく日本文学っぽさがあります。
8. いつか見た夢を
びっくりするほど”爽やかで明るい”一曲。「今すぐさあ行け!」「今すぐさあ輝け!」これは宮本浩次がファンに贈るストレートな応援歌なのだろうと個人的に思っています。ドライブしながら聴くとめちゃくちゃ上がりそう。
9.赤き空よ!
『いつか見た夢を』と同じくストレートな明るさをもつ一曲。「Let Go 明日へ」「出かけてゆくぜ明日の空へ」など、”明日”というワードを含むフレーズがくり返されます。歌い方や発声にどこかノスタルジックな空気感をも感じる一曲。
10.夜の道
曲タイトル通り、夜の道を歩く二人をやさしく描いた一曲。
和やかな楽曲かと思いきや、歌詞にさらりと人生観みたいなものが登場するところがいかにもエレカシらしくて好きです。人の生と死は単なる希望や絶望ではなく”ただ静かにそこにあるもの”とでもいうような淡々とした空気感。
11.幸せよ、この指にとまれ
絵にかいたようなザ・応援歌。個人的に「応援歌」として聴かれる前提で作られる曲があまり好きではなくて、そもそも本当に落ち込んでいる人間を心から”幸せに”できる音楽なんてあるのだろうかという懐疑心があったのだけれど、エレカシ楽曲はなぜか素直に聴けることが多いのです。
なぜだろうなあ。おそらくは「風にまぎれている幸せ」とか「暮れゆく町の空」のような、どこか淋しさをはらんだワードセンスが素晴らしく”ハマっている”ためなのかもしれません。
12. 朝
鳥のさえずり。雷鳴。大雨。
13.悪魔メフィスト
いい意味で”狂った”宮本浩次が見られる刺激的な一曲。音楽的に狂気を演出する方法ならたとえばアレンジャーさんに頼むとか、あるいは演奏法を工夫するとかいろいろやり方はあるのだろうけど、そこを自分の喉一つで見事にやってのけるのが宮本浩次という男なのです。
光に闇、空に大地、陰と陽…相反するものがすべてそのままこの世にある。人生が苦しかろうと楽しかろうと、本当はただそれだけのことなのかもしれません。
エレカシ『悪魔のささやき』はなぜ廃盤になったのだろうか
当アルバム『悪魔のささやき』は現在廃盤になっており、デジタルやダウンロードをのぞき、新規の購入ができない状態です。通常、作品が廃盤になる理由としては単に売り上げの問題、あるいは表現に何らかの問題があった場合などが考えられますが、少なくとも『悪魔のささやき』においては、そのような問題事項は見られなかったと言われています。
廃盤になった理由について、公式の発表等も特にありませんでした。表立っては言えないような、いわゆる”大人の事情”的な何かがあったのではないかと個人的には考えています。
ただ、上記で解説してきた通り、アルバム『悪魔のささやき』にはエレカシの陰の世界観も陽の世界観もバランス良く組み込まれており、ファンのあいだでは”エレカシらしいアルバム作品”として今も広く親しまれています。
廃盤になった、というのは単なる一つの結果。当作品はエレカシをあらわす珠玉の逸品として、今後も多くの人に受け入れられていくことでしょう。